元戦略コンサルトの書く自己啓発の本は「正論だけど、だから?」という本が多いんだけど、「抜擢される人の人脈力」は、良い意味でそれを裏切ってくれる本なので紹介しようかと思います。

能力があるのにどうも運のない人、どこの組織でもくすぶってる人がいる一方で、能力や知識はボチボチなのに、いきなり抜擢され(いわゆる出世をして)活躍している人がいます。「あいつは運がいいから」と一言で片付けてしまうと、いくら能力があっても一生ボチボチな人のままで終わってしまう可能性があるということに、この本は気がつかせてくれます。
抜擢というのは、待ってるだけでも能力や知識を持ってるだけでも叶うものではなく、つかみとるものであることをこの本は教えてくれます。しかも、その抜擢の機会のつかみ方を見える化してくれているという意味でこの本の価値は非常に高いと言えます。
自分もどちらかというと能力やスキルをバネにそれなりのポジションを築いていこうという頭でっかちな考え方をしていました。しかも、それなりに「こなせる経験」をすれば、次の「同じステージでの経験」ということを繰り返していました。本来は「上のステージでの経験」を目指すべきなのですが。
そして、抜擢される人の人脈力を読んで、振り返ることをあえてしなかった昨年のことも少し書いてみようかという気にもなりました。年度末に、ブログを書かなくなった理由をなんとなく捏ねて書いてしまったけど、本当は4月から10月末までのたった7ヶ月間の仕事が、もしかしたら前髪しかないチャンスの神様だったのかもと。
「自分自身の潜在能力を買いかぶってくれる人がいなければ、抜擢というチャンスは決して訪れることがないもの」「白馬の騎士は待っててもやってこない」と言う著者の岡島さんが、抜擢という運をつかむために最初にやらなければいけないこととしてあげているのが「自分にタグをつける」ということ。そう、del.icio.usで一気にブレークしたまさにあのタグのこと。
抜擢される人の人脈力の中でタグとは、
・どんな仕事をしたいのか
・自分に出来ることは何か?
・相手にどんなメリットをもたらすか?
と定義されています。
相手のメリットというのは、抜擢してくれる人の視点で合理的な説明がつくメリットのこと。つまり、抜擢してくれる人の立場や状況に応じて、あらかじめ用意しておいた複数のタグをうまく使い分ける必要があるってことです。最近の自分は、「何もんなんですか?」という質問に対して、「何でも屋というか、器用貧乏なんでもこなしちゃうんですよね」という完全な「 I Am Nobody」になっているとまずは反省し、タグの整理をはじめたところ。
抜擢されるために、次にすべきことは「コンテンツを作ること」。すなわち、実績を作るということ。
転職活動をした人間だとよく分かると思いますが、実績と言われると言われるとどうしても遠慮がちになったり、尻込みしてしまうこともよくあります。自分のような企画や立ち上げを得意とする人間は、企画や戦略、設計、組織の土台を作るところまでを仕事の領域としていることが多く、その後のデリバリや実行部分で失敗なんてことがあると「実績なんかないんじゃないか」と悲観的な考え方に陥ってしまうことも多々あったり。
だけど「最初は、具体的な成果でなくてもかまわない。時間がかかるものだし、時の運もあるから。」と実にプラクティカルな目線で、抜擢される人の人脈力は、気づきを与えてくれます。
しかも、コンテンツとなる実績は成功体験だけでなくてもいい。「そこで何の役割と責任を担ったのか?」「どんな努力をしたのか?」「経験をして何を学び取ったか」「どこまでそのコンテンツに対して真剣に関わっているか(いたか)」というを相手に分からせればそれでいいとのこと。
この本の共感出来る点は、正論だけでなく逆説的な現実論も同時に展開してくれてるという点。例えば、コンテンツとなる実績を作る際に、自分のつけた「タグ」にとらわれれすぎると、チャレンジができなるという弊害があるとも岡島さんは指摘しています。まさに「不意にやってきたチャンスが、「自分のやりたいこと」と違った場合、せっかくの機会を逃すことになります。」という一文は、昨年の自分の経験を文面にした感じで、なんでこの本がもっと早く(2年なんて執筆時間かけてんじゃないよー!)出版されなかったのかとか悔やみたくなります。


昨年の仕事のことをさらっと書くとこんな感じ。
昨年3月、当時自分がリーダーとしてまとめていたある外資系企業とベンチャー企業とのアライアンスをベースとした医療関連ビジネスが事業環境の変化という理由で無期延期となりました。社会インフラとしても非常に価値のある事業を前例のない新しいビジネスモデル上で構築するために、タフな交渉相手とも一歩も引かずに、かなり意欲的に取り組んでいました。しかしながら、合意一歩手前という段階で、理不尽な理由でプロジェクトなくなることにかなりの失望感で一杯で転職を考え始めたところでした。
そんな時、グループ内の教育関係の別会社の営業組織の立ち上げをしないか?という誘いをもらいました。まったくの門外漢だし、営業なんてするタマでもないと思いつつ、ここで結果を出したらもしかしたら・・・という期待もあり、チャレンジすることにしました。
教育事業そのものに興味があったわけではなく(つまり自分がやりたいことではなく)、事業再生という分野に興味ありと前向きに考え、自分としてはそれなりの役割と権限、つまり裁量を与えてもらえれば、再生できるという自信もありました。ここまでは、不意に来たチャンスをつかんだと言えるかもしれません。
実際に4月に着任してみるとやはり典型的なぼろ会社。挨拶すら誰もしない、属人的に仕事がされていて、責任の所在も不明、組織のゴールやビジョンがないために達成感はどこにもない。創造性なんて二の次という状態。人の定着率はかなり低く、精神的な病は毎月のように発生。色んな人が様々な取り組みを時間をかけてやっては結果を出せず、しかも検証すらせずに下部で責任のなすり付け合い、外部から来た人間に奇異な目が向けられるのは当然といった状況でした。
この状況に変化をもたらす(きっかけがないと組織は動きはじめない)には、最初の2ヶ月くらいがとにかく勝負です。まずは、誰かが何とかしてくれるではなくて、このまま行けば自分も沈むという切迫感と、当事者意識を植え付けることをしました。外部と内部環境の現状を2週間で整理し、組織のゴールを自ら設定(もちろん複数の時間軸で)することで、個人のミッション、責任の所在をはっきりさせました。
組織というのは、上から目標がおりて来るケースが多いですが、その目標が根拠もなく到底実現不可能だと感じた場合は、動くことをやめますが、一方で自らが決めた目標の場合は、なんとか実現しようと知恵を絞って動きはじめると思ったのです。
予想していたよりも早く組織は動き始め、営業組織の基盤も1ヶ月で立ち上がりました。自分自身も勝つ戦略を机上で策定するだけなく、その正否を泥臭い営業など通して検証しながら、知恵を皆で共有しつつ、貯める仕組みも作りながら、修正していくというサイクルをまわし始めました。
ただ、当初の予定と少し違った事が起きつつありました。それは、当時2人いた上司が、当初の約束(裁量の件)を反古にし、価値観や時間軸が異なる細部の議論をふっかけ始めたのです。くだらないので全てを書く事を省略しますが、例えば、部下の勤怠管理を1分2分単位で細かくチェックする事を求めたり、業務分掌の定義を求められたり、全ての行動を監視下に置いたりなどなど。確かに、IT系のボロプロジェクトなどでは、この手の管理が有効な場合がありますが、この組織は目標ややりがいを失っている事が底辺の課題として存在していて、勤怠などの管理はさらにずっと後回し(やりがい出てくれば、会社にくるのも楽しくなり、結果的に勤怠が良くなる事だってあるはず)で良いはずでした。
世の中にはいくつかのタイプのリーダーがいますが、リーダーになれるかどうかリーダーの資質があるかは全く関係ないことがあるのも事実です。この事は、抜擢される人の人脈力で書かれていることと逆説的ではありますが、抜擢されたからといってリーダーが必ず優秀な能力がある訳ではないし、そのリーダーを選ぶ事が出来ない部下は辛いだけということも十分ありうる訳です。杓子定規、優柔不断、カメレオン、すなわち、リーダーシップとバランス感覚をともに欠如したリーダーのもとで働くことほど不幸なことはありません。
市場とのコミュニケーションを重視すべき段階で、内部のそれも上から足を引っ張られる状況が続き、さすがにモチベーションが下がって来た時期もありましたが、半年ほど逆風に耐えながらも組織のエンジンとなり車輪となり、ハンドルを持ちながら、かなりのスピードで会社全体を動かし、組織を前進させることは出来ました。
著者の岡島さんによると、仕事がどんなに辛くても逃げ出さないで踏みとどまる拠り所は、
・結局のところ今やっているこの仕事が好きだ
・この社長や上司ならついていける
・一緒に仕事をしている仲間となら困難にも立ち向かえる
なんだそうです。2つ目はなくとも、この組織にはすばらしい仲間がいた事実をもう少し客観的に仕事を続ける拠り所として当時考えることが出来れば、自分自身の気持ちをうまく立て直すことが出来たかもしれません。
その後も様々なイベントやら事件(もちろん修羅場も)を乗り越え、どの人より多くのコンテンツも作りました。人にはモテ期があるように、仕事という世界にもモテ期があるのかもしれません。きっと仕事におけるモテ期というのは、こんな感じなんだろうなという一端を垣間見た時期だったかもしれません。ただ一方で、外部からのショック療法により変化を成し遂げなければなかった一部が、慣れのためかコエダメのように残ったままとなり、そこから綻びが少しずつ見えるようになってきました。
それで、自分の気持ちが切れてしまうことも。気持ちが切れると、仕事に集中してる時には気がつかないことも見えてくるものです。例えば、土日も夏休みも仕事だったため、生まれたばかりの子をはじめ家族との時間が極端に少なくなっていることに寂しさを覚えたり。自分のライフスタイルを壊してまで、本当に自分がやりたいことをやっているのか?という自問自答が繰り返されるようになってきます。Steve Jobsが言ってるように「誰かのために自分の時間を使うべきじゃない」なんじゃないかと。
結局、6ヶ月目に一度立ち止まりリセットするか、続けるための条件を本社の役員会にに託しました。単に辞める辞めないの話でなく、この本で言う次のステージにあげる抜擢を、自分自身の進退をかけて、他薦ではなく自薦でしてみたのです。
それは、
・責任を負う代わりに権限をください。
→元々の約束の確認。もっと責任のある仕事を任せて欲しいという意。
・その代わり期限を切るのでそこで続投の判断をしてください。
→期限切って辞めたいという意ではなく、期限単位の成果を正当に評価してほしいという意。ポストにこだわりは全くありませんでした。
・片腕をひとりつけさせてください。
→一人で乗り込んだため、これまでの自分の役割を担う人物、頭を借りる人が必要だった。
・後ろ盾になって欲しい。
→梯子をはずされたくなかったので。
この件、かなり議論されたようですが、結果的には、条件は認められないとうことでその次月にその教育事業の会社から抜けることを選択しました。もし、OKという返事があれば、更に意欲を持ち、仕事を続けたと思いますが、「がんばり」が足りなかったのかなぁと思います。自分自身では、自分のやりたいことこそモチベーションが発揮出来るから、そちらを優先したと考えています。
抜擢される人の人脈力の中では、抜擢には、ビジネスの心肺能力を鍛える必要性も記載されています。集中力、根気や粘り、すなわち「がんばる」ことの大切さも書かれています。
ビジネスの心肺能力を鍛えるためには、
・脳に汗をかくくらい頭を使う
・ビジネス上の修羅場を経験する
・自分の名前で仕事をする
事が必要なんだそうです。
自分にとって、2つ目が昨年の経験だったのかと思ってます。1つ目は、医療ビジネスの時、3つめは、前の会社で経験。これは、まさに7つの習慣でも記載されている自分の葬式にどれだけの人が来てくれてどんなことを思ってくれるのかのそれに近い世界。
昨年度の経験を後で振り返ったときに、同じ過ちを繰り返さないと思っています。次のチャンスは、あるかないのかわからないけど、次はもっと上手く成し遂げるはず。だって、一度失敗して学んでるんだからと思って行こうと思ってます。今年の最初のブログであいさつの後に粘り強くと書いたのも、そんな意識から。
抜擢される人の人脈力によって、「自分が考案した製品なりサービスなりを世に出して、それを世の人が喜んで対価を払ってくれるものを一生にひとつは作りたい」という「タグ」を実現するため、更に抜擢される人の人脈力の向上を計らないと考えさせられました。
繰り返しになりますが、久しぶりに良いビジネス書、頭でっかちじゃない元コンサルタントの本を読みました。自身のコンテンツも、最近の勝間本に見られがちな自慢気な鼻につく感じ(自意識過剰ではないと思うんだけど、最近の勝間本はちょっとやり過ぎ)もなく、さりげない自慢で良かったです。
同じような境遇がある人、少し先に抜擢を淡々と狙う30代前半位の人は是非読んでみてください。

  1. honest says:

    自分も企画業務が好きで、実施を重くみてない時期があった。でも形にならないと企画も何の意味もないので、ある時期から実施を誰にやってもらおうかと考えて、人脈を作りました。実施のプロは、逆に企画のコンセプトは何かにこだわりました。企画のコンセプトがしっかりしてないと、実施部隊が勝手に行動してしまうからです。企画の途中から実施のプロとお茶を飲み、企画の骨子を作っていきました。そうすると、企画のゴーが出た時、スムーズに受け取ってくれます。
    企画と実施は往々にして、摩擦を起こします。
    実施ができるパートナーを見つけると企画もうまくいくと思います。